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四万十の原木椎茸

十和の椎茸の歴史

四万十川の中流域に位置する旧十和村地域は、163k㎡もの広い地域を占めているが、そのうち山林は92%におよんだ(昭和30年当時)。
このデータからわかるように旧十和村の主産業は農林業であったが、村民の経済状況は決してよいものではなかった。
そうした状況を打開するため、昭和32年、6年間にわたり業務を休止していた十川農協は、村議会の決議により再建発足した。
これを皮切りに、山村特有の立地と資源の活用をはかり、当時盛んであった木炭の生産にかわって、椎茸の生産に着手し始める。
「椎茸振興5カ年計画」、「古城(こしろ)椎茸研究会」が作られ、椎茸の生産技術の向上に力を入れ、土地にあった品種の選定を行った結果、その生産量はみるみる伸びていった。
朝晩の寒暖の差が激しく、濃い朝霧が発生する十和は、湿度が高く、椎茸の栽培に適していた。椎茸の乾燥設備を開発し、低コストでの長期保存を可能としたことも拍車をかけ、一躍椎茸が村の主力産業となる。
㊉(まるじゅう)の椎茸として全国的に有名になり、日本一の生産量を誇る年もあり、10tトラックが何台も来て、椎茸を運んでいる光景が当時は当たり前であった。
昭和50年代後半までその椎茸の販売金額は伸び続け、椎茸だけで8.5億円もの販売額を叩き出した。
陰りが見え始めたのは昭和60年代はじめ。
急激に円が安くなり、安価な外国産の椎茸が大量に輸入されるようになり、取引価格がみるみる下落。農家の高齢化も相まって、ダブルパンチで一気に椎茸の生産量も落ちていった。
それからは、他の農産物と同様に、その生産量は下降の一途を辿るが、「なんとか椎茸を売り出し、農家の所得を安定させなければならない」という機運が高まって、現在に至る。

収穫まで一年以上かかる原木栽培

旧十和村地域の椎茸は全て原木栽培。
菌床栽培では収穫まで5~20週間程度しかかからないが、原木栽培だと一年以上もかかる。
菌床栽培がこれほど普及していることからも分かる通り、原木栽培での苦労は多いのだ。
原木椎茸の栽培は、原木の調達のため、木を切り倒すことから始まる。
山で木を切り倒しても、山では作業がしづらいので、一度原木を下ろす。
そして、ホダ木用に木の長さを揃えて切っていき(玉切りという)、菌を植え、数ヶ月菌を原木の中でまわした後に、再び原木を山に運ばなければならない。
これだけ苦労しても、先述したように収穫までには一年以上山で寝かせなければならないのだ。
こうして長い間寝かせられ、原木から発生した椎茸は、原木の養分をじっくりと蓄えていく。
長い時間をかけて育った原木しいたけは、肉厚で身が締まっている。その香りや風味は、通常の椎茸とは別格である。

椎茸農家の酒井和志さん

十和の山奥である地吉(じよし)という集落で椎茸の栽培を行なっている酒井和志さん。
酒井家は和志さんのおじいさんの代から椎茸作りに取り組んでおり、和志さんは3代目となる。
現在も両親と一緒に椎茸の栽培に取り組んでいる。
和志さんは大学を卒業後、そのまま十和にUターンし、22歳から椎茸の栽培に取り組んできた。幼少の頃から父の椎茸栽培のお手伝いをしており、椎茸農家を継ぐことに、迷いはなかったそう。椎茸農家を継いだ当時は「椎茸農家」としては村一番の若手だと言われてきたが、17年経った今も村で一番の若手の座は明け渡せていない。それほど、若い農家が増えていかない状況であり、後継者問題は目下の課題なのである。

原木椎茸から生まれる自然の循環

山で原木栽培をするということは、先述したように原木の管理はもちろんだが、山自体の管理をする必要がある。
なぜなら、椎茸にとっては、山が「畑」になるからである。
畑がダメでは良い野菜が作れないのと同様に、山の管理なしには立派な椎茸は生まれない。
山の管理といえば、森林の間伐である。
木が密集し、日当たりが悪くなったところの木を切る、あるいは枝打ちすることで、日当たりを調整していく。
椎茸を作る山に登ると、ひんやりと薄暗いが、至る所で木漏れ日が見られる。日の当たり過ぎも、当たらな過ぎも、どちらも椎茸にとって良くない環境なのである。
加えて、先ほどの酒井和志さん一家は、原木となるクヌギの木を自ら植林し、その木を切り倒して椎茸栽培の原木に使っている。
切り倒した切り株を15年ほどかけて次の原木のために育てていく。
こうして作られた原木は、使い終わったら再び土に返し、山の養分とする。このような循環が、原木椎茸の栽培からは見られるのである。
こうして最近では野放しになり荒れてしまった山を、椎茸の栽培を通して管理していくのである。
酒井さんの「椎茸は林業である」という言葉が印象的である。

完全天日干しの乾燥椎茸

椎茸といえば、乾燥させて保存がきく食物である。
通常の農産物と違い、椎茸は乾燥させることで、その香りが増す。
十和では、天日干しと機械により一気に乾燥させる二通りの乾燥方法を行う。
天日干しとは、その乾燥の全ての過程において、機械を用いず、太陽の光のみで干していく手法である。
天候が変わりやすい山間部では非常に手間のかかる作業なのである。
機械で行えば半日で終わる作業も、天日にこだわると長い時は一月近くかかる。
なぜ、そこまで天日にこだわるのか。
それは日光から栄養を吸収することで、生の椎茸とはまた違う旨みが凝縮されていくからである。
科学的に言うと、日光を当てることで椎茸の中にあるエリゴステロールという成分がビタミンDに変わっていき、当初の10倍以上のビタミンDになる。これらを水で戻すことで、生では感じられない旨みを持ったダシをとることができ、かつ乾燥状態からは想像できない大きさに戻った肉厚な椎茸を楽しむことができるのだ。

①ほだ木と椎茸.jpgホダ木に実をつける原木椎茸
②椎茸とカゴ.jpg原木椎茸はふっくらと肉厚
③左上 切り出し.jpg

玉切りのようす

③右上 原木の山.jpg

切り出したクヌギ

椎茸の菌打ち

③右下 椎茸の仕分け.jpg

収穫した椎茸を仕分け

⑦椎茸農家の和志さん.jpg椎茸農家の酒井和志さん
手入れされた木々の間にホダ木が組まれている
⑨天日干し.jpg網の上に広げ、じっくりと天日で乾燥させる

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